米国ECアパレルブランドBonobos の急成長と失速
2021/06/25
カテゴリー越境EC最新情報
メンズパンツに特化したECからスタートし、急成長するもターゲットの拡大を狙ってWalmartに売却されたことをきっかけに、低迷 |
Bonobosとは
2007年創業のBonobosは、自分の体にフィットし、見た目も美しいパンツを見つけるのが難しいことにうんざりしていたアンディ・ダンとブライアン・スパリーが同じ悩みを抱えている人が多くいることに着目し、よりフィットするパンツをデザイン・オンライン販売する目的で立ち上げた米国発のメンズアパレルブランドである。
アメリカのパンツは “ストレート”、ヨーロッパのパンツは “スキニー “と言われているが、彼らはその中間のパンツというユニークなデザインに加えて、顧客に安心して購入してもらうために、カスタマーサービスを充実させ、急成長を遂げた。
※ズボンの市場規模は年間約1,250億米ドルで、年間成長率は7%。
Bonobosの戦略…ユニークなカスタマーサービス
彼らは、新規顧客を増やす戦略として、カスタマーサポートを充実させ、顧客にポジティブな購入体験をしてもらうことで、自動的に口コミで新しい顧客が獲得できると考えた。
それだけではなく、Bonobosで販売されていたパンツは100ドル前後で、初めて購入する人にとっては決して安いものではないため、3〜4種類のサイズや色を注文し、気に入らなかったサイズや色を返品できる無料の返金プログラムを提供することでさらにカスタマーサービスを充実させた。
こうした戦略が功を奏してBonobosの人気が高まるにつれ、顧客から「買う前に試着したい」という要望が多く寄せられるようになり、オンラインで注文する前に試着できるよう、2011年にニューヨークに1号店をオープンさせた。この店舗は販売用の在庫はなく、試着専用という新しい試みの店舗であった。
このアイディアは成功し、パンツを試着した人の90%が購入に至り、1本購入した人の25%が3本継続して購入する結果となった。その後さらに2013年にはシカゴ、サンフランシスコ、ジョージタウンにも店舗をオープンさせ、売上は2010年の950万ドルから2013年には6,930万ドルに増加した。*2019年現在の試着店舗数は62店
こうしたユニークな取組により、Bonobosは最初の1年で10万ドルの売上を達成、その後年平均30%前後の成長を見せ、2017年には年商約1億50万ドルに達した。
Bonobosの弱点
Bonobosは急成長を見せたものの、2020年の米国大手ファッション小売企業売上の順位では92位(売上約2億ドル)にとどまり、Macy’s、Amazon、GAPの上位3社の売上高20億ドルと比べると遥かに下回っている。
Bonobosには、ソーシャルメディアのパフォーマンスが本来のレベルに達していないという弱点があり、SNSの投稿は、平均して500件以下のインタラクションしかなく、Gartner(世界有数のリサーチ&アドバイザリ企業)の指標平均を大幅に下回っている。
Walmartによる買収
Bonobosは2017年にWalmartに約3億1000万ドルで買収され、転機を迎えた。
Walmartは、独自のプライベートファッションブランドを展開して好調なAmazonに対抗する狙いでBonobosをはじめ、EloquiiやModClothといったオンラインブランドの買収を進めていた。
一方、Bonobosもターゲットの拡大を狙っており、利害関係の一致した買収は成功するかと思われていた。
https://www.walmart.com/browse/clothing/bonobos/5438_3317124_4118958 |
しかし蓋を開ければ、Bonobos の売上はWalmartが期待していた数字に達せず、従業員の大幅解雇を余儀なくされており、Walmartからの売却をも噂されている。 Bonobosだけではなく、同時期に買収されたEloquiiとModClothも売上が低迷し、2019年にWalmartはModClothを手放している。
Bonobosの低迷は、大衆向けのWalmartでの販売によって、洗練されたブランドとユニークなセールスポイントが損なわれ、ブランドの価値が下がり、ファン離れを招いたことが原因と考えられている。
今回のWalmartによるBonobosの買収劇は、ブランドの持つ力は必ずしもプラスに働くわけではなく、扱い方次第ではマイナスを招く先例となっており、今後の展開が注目される。